SE のための金融入門

SEのための金融入門―銀行業務の仕組みとリスク

SEのための金融入門―銀行業務の仕組みとリスク

 ふと目についたので衝動買い。ちょうど銀行業務にも興味があったところなので、何となく斜め読みして気になったところを纏めてみた。銀行は証券会社と違って間接金融なのでとにかくリスクを取らないイメージがある。じゃあ実際どんな風に業務をしているんだろう?

銀行の収益が向かう方向

 銀行の収益の大半は利鞘、つまり貸出や有価証券の運用利回りと預金との調達コストの差から生み出されている。従って銀行は常に貸出や運用利回りを高くすること、預金金利を低くすることを考えている。しかし金融自由化の影響で競争が激化し、利鞘収入によるビジネス(ストック・ビジネス)が難しくなってきている。そこでフロー型のビジネス、投資信託の販売などによる手数料ビジネスを強化している。近年銀行が証券業務保険業務への参入を強く希望していたのもこのような背景に起因している。バンキングだけでなくトレーディング業務も出来るように体制を強化しているってことですね。

間接金融と直接金融

 直接金融を担う証券会社などは、あくまで投資家と企業の仲介を行うだけで、その投資に対して責任を追わない。一方で銀行は間接金融を担い、投資家は安全に銀行に預金し、銀行が企業に貸出を行う。銀行は投資家の投資リスクを遮断しているとも言える。さらに銀行は投資家である預金者に対して元本を保証しているため、仮に企業が破綻したとしても預金の払い出しに応じないわけにはいかない。このようなリスクの非対称性から、銀行は貸出に対しては十分な審査を行うし、ポジションの管理も厳密になる。また、BIS 規制など自己資本比率に対する規制も厳しくなっている。

ヘッジ会計

 これはこの書籍ではあまり触れられていなかったので、補足しておく。銀行業務では多くの場合、デリバティブはヘッジ目的で利用される。しかし時価会計適用が進む中、ヘッジに利用しているデリバティブは、それだけを抜き出して評価してしまうとヘッジ本来の趣旨とは合わなくなってしまう。例えば有価証券の価格変動リスクをヘッジするためには、多くの場合デリバティブである先物取引時価評価適用対象)を行う*1が、先物でヘッジした場合、ヘッジ対象資産とヘッジ先物取引の損益計上時期がずれてしまう。ヘッジ関係を適切に示すためには、この計上時期を一致させる必要があるのでヘッジ会計が必要となる。具体的には繰延ヘッジと呼ばれる方法が用いられ、デリバティブ取引の評価損益をヘッジ対象の損益が認識されるまで繰り延べ、双方の損益を当期に認識しないようにする。すなわちデリバティブ時価評価しないということである。

信用リスクの把握

 デリバティブの取引相手がデフォルトして予約した取引が実行出来なくなってしまった場合、市場で同じ取引を再構築する必要があり、これを再構築コストと呼ぶ。一般的に再構築コストは同取引の MTM となるが、実際には市況の変化により実際の約定条件は変化する可能性が高い。このため一般的には「MTM + 追加リスク」で再構築コストを算定する。これがカレント・エクスポージャ方式。追加リスクは基本的に想定元本に一定の掛け目を加えて計算し、この追加リスクをポテンシャル・エクスポージャと呼ぶ。

VaR 運用時の留意点

 ヒストリカルデータはどれほど過去に遡及して採集するか。余りにも過去のデータまで使おうとすると、異なったマーケットのデータまで利用することになってしまい、サンプルデータとしての妥当性を担保出来ない。
 異常値をどこまで VaR に考慮するか。特に株式はボラティリティが高いのでどこまで VaR に組み入れるか判断が難しい。
 ポートフォリオ保有期間をどうするか。ポートフォリオをすぐに組み替えられるような銀行であれば保有期間は短く設定することができ、結果として価格変動リスクが少なくなって多額のポートフォリオ保有出来ることになる。しかし流動性の低い商品を多数扱っている銀行などではあまり短い保有期間を設定出来ない。ところが長期保有を前提とすると、価格変動リスクが大きくなって VaR が高まってしまい、資本が不足してしまうことになる。

BPV による判断

 VaR より容易な方法として BPV が広く用いられているが、BPV が大きいとき = 保有ポートフォリオに対するリスクが大きいときに、そのポートフォリオの現状を放置しておくのか、それともポートフォリオを組み替えるのかは金利の見通し次第。一般に債券の感応度は残存期間に強く依存しているので、BPV が大きい場合には残存期間の圧縮が行われる。

銀行の収益管理体制

 銀行では部門別・営業店別採算が行われている。この独立採算にあたっては本部と営業店の資金貸借金利(本支店レート)の設定に大きな意味があり、銀行独自の運用が行われている。
 銀行収益の中核は利鞘収入であるが、営業店の中には預金中心の支店もあれば融資中心の支店も存在する。預金店は余剰資金を本部に貸し付けて運用し、融資店は不足資金を本部から借り入れて調達する。銀行は行内全体で余剰資金は本部に放出して融資店に回し、運用してもらう必要があり、そのために各営業店固有の預貸バランスを組み合わせて銀行全体として望ましい預貸バランスを確保している。このような運用のために営業店の独立採算制と本支店レートが採用されている。例えば、本支店レートを高くすれば営業店は貸出を増やすよりも預金を本部に付け替える方が成績が上がる。一方で本支店レートを低くすると、貸出を増やさないと収益が上がらなくなる。

資金決済システム

 銀行では日々大量の振込依頼がなされ、その中には他行への振込依頼も多く含まれる。銀行同士の精算を個別に行っていてはとても業務が回らないので、銀行業界共通のインフラとして集中決済システムが存在する。集中決済システムでは、銀行同士の立替払いの受払尻を集計し、その結果を日銀に連絡して各行が日銀に持っている当座預金を使ってまとめて決済を行う。このような民間集中決済システムとして、全銀データ通信システムが存在する。

外国為替業務

 銀行では業務の一貫として顧客からの依頼に基づく外貨の売買を行う。取引には直物為替と先物為替があり、先物予約は主に外貨債権/債務について、自国通貨に交換するまでの為替変動リスクを避けるために利用される。このような顧客との為替売買取引を対顧取引と呼ぶ。対顧取引によって銀行は外貨ポジションを持つことになり、為替リスクを負う。しかしこれまで書いた通り、銀行ではリスクを持つことは嫌われるため(O/N ポジションの持ち越しなどは一部ディーラーしか行えない?)、外国為替インターバンク市場でヘッジを行うことになる。インターバンク市場は、為替ポジションを調整してスクエア化するための場となっている。
 外国為替取引としては、対顧取引では直物(スポット)と先物フォワード)が存在する。一方、インターバンク取引では直物・先物の他にスワップ取引が存在する。直物と先物は単独取引で、アウトライト取引とも言われる。対顧取引では先物予約が頻繁に行われているが、インターバンク市場では先物予約は殆ど扱われておらず、スワップ取引が中心となっている。これは、銀行にとって先物のアウトライト取引は投機的性格が強い上、インターバンク市場でなかなか出会いがつかないという事情による。
 対顧取引のポジションをスクエア化する際の例を以下に示す。

  1. 企業から輸出代金のドル先物の売り予約が入る。
  2. ドル先物買いポジションをスクエア化するため、インターバンク市場で先売/直買のスワップ取引を実施する。
  3. ドル直物買いポジションをスクエア化するため、インターバンク市場で直売取引を実施する。


 こんな感じかな。少し銀行業務のイメージが掴めた気がします。

*1:例えば現物国債の価格変動リスクをヘッジしたい場合、国債先物を売っておく。予め決められた価格で売り建てておくことにより、直物ポジションがどちらに動いたとしても先物の損益と相殺されることになる。